フロントエンジン・フロントドライブ
駆動方式は、当時の国産車としては画期的なフロント・エンジン/フロント・ドライブのFF方式を採用していました。それまで、純粋な国産車で、FF方式を採用した乗用車は一台もなく、海外でもシトロエンやルノー、サーブなどの限られたメーカーのみが生産していました。
スバルのFF方式は、全長の短い水平対向エンジンを縦置きにフロントのオーバーハングに搭載し、その後方にギアボックスとデフを置くという、スペース効率の良いレイアウトをデザインしました。これにより、スバル1000は、そのボディサイズから考えれば驚くほど広い居住空間や、低重心な水平対向エンジンをフロントに搭載していることから、雪道などのトラクションに優れていました。
水平対向エンジン
水平対向エンジンの特徴は、小型軽量であることと、スロットル・レスポンスの良さにあります。言い換えれば、極めてスポーティな特性を持っていると言えます。また、シリンダーの中を往復するピストンの動きが左右対称となるために、動的なバランスが取りやすく、従って振動が少なくなる利点があります。振動を抑えることは、乗り心地が良くなるばかりではなく、エンジンの耐久性も向上することになります。
レガシィやインプレッサが実用的なセダンでありながら、ステアリングが軽くシャープであり、スロットル・レスポンスが良く、加速性能にすぐれているなど、 その走りが極めてスポーティなものとなっているのは、水平対向エンジンを持っているからだと言っても過言ではありません。
1965年秋に開かれた第12回東京モーターショーで富士重工は、スバル1000を発表しました。空力学的なスタイルのボディを持つ4ドアセダンで、本格的な前輪駆動システムと国産乗用車としては、はじめての水冷水平対向エンジンが組み合わされ、今日のレガシィやインプレッサ、フォレスターに至る水平対向エンジン史の始まりでした。
制動・懸架装置
懸架装置は、フロントにダブルウィッシュボーンとトーションバー・スプリングを組み合わせた一般的なものでしたが、ステアリング操作をクセがなく自然に行えるように、センターピボットシステム採用していました。そのため、ブレーキは、ドライブシャフトのデフ側に置く、インボード・ブレーキ方式という凝ったメカニズムでした。
インボード・ブレーキの特徴
センターピボット・ステアリング方式の採用によって、タイヤの接地面の抵抗を最小限に止め、操舵反力が軽減された。
同時にハンドルの操舵角度も大きくとることができた。
バネ下重量が軽減されて、タイヤの接地性がよくなり、加速、乗り心地、走行安定性が良くなった。
ブレーキがホイールから離れているので、泥や水が入りにくい。
スバル1000 透視図
デュアルラジェータ方式のスバル1000には、一般的に採用されている、冷却ファンがありませんでした。
その構造は上図のように、メインとサブの2つのラジェーターと、リザーバータンク、サブラジェーター用の小型電動ファンから成り立っている密封加圧式の冷却システムで、状態に応じて3段階の効率的な冷却を行うことができました。
また、この方式が国産車に採用されたのはスバル1000が最初でした。
■スバル1000季節の写真集
スバル1000の美しい走行写真を集めた小冊子(非売品)の再録をご紹介します。
こちらよりご覧ください。(資料はPDFで開きます。)
■スバル1000運転操作と各部機構
運転席廻り
ここでは、スバル1000の運転操作関係の各部機構の取扱方法を通して、使いやすく合理的なデザインをふりかえってみましょう。
スバル1000の運転席まわりは、より安全に運転を楽しめるように、各部の機構が機能的にレイアウトされていました。
コンビネーションメータ
フューエルメータは、スタータスイッチをONの位 置にすると作動しました。
スピードメータは、km/h表示。
サーモメータは、エンジンの冷却水の温度を示します。このメータが走行中105度を示したら注意。
チャージパイロットランプは、運転中、発電関係に異常がある時に点灯しました。
パスビームパイロットランプは、ヘッドランプが点灯している時に点灯しました。
ターンシグナルパイロットランプは、右左折時に点灯する方向指示灯です。
オイルパイロットランプは、エンジン回転時に、潤滑油の圧力が0.3kg/cm以下の時に点灯し警告しました。イグニッションスタータスイッチをONにすると点灯し、エンジンを始動させると消えます。
コントロールパネル
チョークボタンは、引き出し式で厳寒時など、始動困難な時に使用します。
ライティングスイッチは、一段目がパーキング、テール、ライセンスランプ。パーキングとヘッドランプは、ハンドル右のデイマスイッチによって切換が可能。二段目は、ヘッド、テール、ライセンスランプが点灯。
ワイパースイッチは、二段式で、雨量 に応じて速度コントロールが可能。一段目は低速、二段目が高速です。また、スーパーデラックス車では、スクリーンウォッシャスイッチと兼用になっていました。
シガーライターは、スーパーデラックス車に装着されていました。
ベンチレータノブは、ツマミを上げると閉まり、下げると開きました。任意の位 置で風量の調節が可能です。また、雨の日でも、窓を閉めたままでベンチレーションができるようになっていました。
ウインカー
ターンシグナルとデイマスイッチは、手動式で兼用となっていました。上げると左折、下げると右折で、前後のターンシグナルランプが点灯しました。ターンシグナルは自動戻り式。デイマスイッチは、レバー先端のノブを前後方向に操作しました。
ヒーター
三方開きのシャッタは、各シャッタを開閉することにより、暖気量 を配分することができます。なお、フロントガラスの曇り止めとして使用するときはシャッタを閉めて使用します。
ヒータスイッチは、イグニッションスイッチの下にあります。引き出すと、ヒータ内のシャッタが開き、暖気が室内に導入されます。さらに、レバーを右に廻すとブロアモータが回転します。回転は二段式で一段目が低速、二段目が高速です。
ギヤシフトレバー
ギヤシフトレバーは、フルシンクロ前進4段、後進1段です。後に、フロアシフトモデルが発表されました。
ハンドブレーキ
ハンドブレーキレバーを、一杯に引くと前2輪にブレーキがかかります。
ドア廻り
四つのドアの施錠は、ドアを閉めてからセフティノブを押し下げます。解錠は、まずセフティノブを引き上げ、インナーリモートレバー(ドアハンドル)を引き、ドアを開きます。なを、前ドアは、ドアを開いたままノブを押し下げ、ドアを閉めてもノブは、跳ね上がり施錠されません。これは、室内にキーを忘れた場合を考慮してのことです。後ドアは、ドアを開けたままで、セフティノブを押し下げ閉めても施錠されました。
室内
サンバイザーは、デラックス及びスーパーデラックス車は2バイザー、スタンダード車は運転席側のみとなっていました。いづれもサイドバイザー兼用です。
後席にはアシストグリップが装着されていました。これはコートハンガーとしても使用することができます。
スーパーデラックス車のルームランプは、点灯、消灯スイッチの他に、フロントドアが開いている際に点灯するドアスイッチが装着されていました。
シート廻り
スタンダード車及びデラックス車は、ベンチタイプ。スーパーデラックス車は、セパレートタイプです。いづれもフロントシートは、好み位 置に合わせて運転できるように、前後5段階にスライドさせることができます。スライドの調節はアジャスタレバーで行います。
また、スーパーデラックス車は、フルリクライニング方式を採用しています。リクライニングは4段階に背当て角度の調節が可能です。
エンジンフードの開閉
フロント運転席側ラゲッジシェルフ奥にあるレリーズレバーを引くと、エンジンフードが浮び上がります。次にロックレバーを押し上げ、ロックをはずしつつフードを開きます。
フードを閉めるときは、ストッパーのボタンを引き、はずしながら閉めます。
工具及びジャッキ
工具は、バッグに納められ、フロントラゲッジシェルフ内に、ジャッキは、エンジンルーム内に納められていました。
工具は、マイナスドライバー、プライヤ、プラスドライバ、ハブナットレンチ、プラグレンチ、スパナ(4種)が搭載してありました。
インスペクションランプ
工具は、バッグに納められ、フロントラゲッジシェルフ内に、ジャッキは、エンジンルーム内に納められていました。
工具は、マイナスドライバー、プライヤ、プラスドライバ、ハブナットレンチ、プラグレンチ、スパナ(4種)が搭載してありました。
■スバル1000バリエーション
スバル1000 4ドアセダン
エクステリア
スバル1000<4ドア・セダン>は、どんな場所においてもエレガントな落着きを感じさせる風格と個性をそなえた、本格的な4ドアセダンです。 当時の1000cc乗用車に求められる全ての条件を贅沢に満たした、理想的な高級ファミリーカーでした。
<SPEC(スーパーデラックス)>
全長 |
3930mm |
全幅 |
1480mm |
全高 |
1390mm |
重量 |
695kg |
エンジン型式 |
EA52型水平対向4気筒水冷4サイクル |
排気量 |
977cc |
圧縮比 |
9.0 |
最高出力 |
55ps/6000rpm |
最大トルク |
7.8kgm/3200rpm |
懸架装置 |
フロント:ウイッシュボーン式独立懸架
リア:トレーリングアーム式独立懸架 |
インテリア
フラットな床面と<FF空間>
FF方式の採用により、プロペラシャフトの出っ張りがなく、床面はフラットで、前・後席とも、ゆとりのレッグスペースでした。
また、ホイールベースが長いので、室内長が最大限に利用できるだけでなく、リヤシートにはタイヤハウスのふくらみもありません。
スバル1000 2ドアセダン
エクステリア
コンパクトにまとめられたヘッドライトまわり、美しい曲面 をえがくサイドビュー、そして流れるようなボディライン。
走っているとき最も美しく、しかも、どんな場所においてもエレガントな落ちつきを感じさせる車。いつまでもフレッシュな魅力を失わずにアキのこない車。それがスバル1000<2ドア・セダン>です。
<SPEC(スーパーデラックス)>
全長 |
3930mm |
全幅 |
1480mm |
全高 |
1390mm |
重量 |
685kg |
エンジン型式 |
EA52型水平対向4気筒水冷4サイクル |
排気量 |
977cc |
圧縮比 |
9.0 |
最高出力 |
55ps/6000rpm |
最大トルク |
7.8kgm/3200rpm |
懸架装置 |
フロント:ウイッシュボーン式独立懸架
リア:トレーリングアーム式独立懸架 |
インテリア
スバル1000<2ドア・セダン>のドアは、左右の巾が1,053mmと、当時の国産同クラスの2ドア車では最大でした。
また、床面もフラットなので、大人5人がゆったりくつろいだドライブが可能でした。
スバル1000 バン
エクステリア
スバル1000バンは、前席、後席はもちろんのこと、バンの使命である荷室も、低く、平らで、広く使い勝手の良いものでした。性能、居住性、荷室、その全てが当時の1500cc級のバンにひけをとることなく、1000cc級バンで4ドアなのは、スバル1000バンだけでした。
<SPEC(スーパーデラックス)>
全長 |
3880mm |
全幅 |
1480mm |
全高 |
1415mm |
荷室長 |
1445mm(2名乗車時)
830mm(5名乗車時) |
荷室幅 |
1205mm(2名乗車時)
1200mm(5名乗車時) |
荷室高 |
995mm(2名乗車時)
985mm(5名乗車時) |
ホイールベース |
2420mm |
重量 |
740kg |
エンジン型式 |
EA52型水平対向4気筒水冷4サイクル |
排気量 |
977cc |
圧縮比 |
9.0 |
最高出力 |
55ps/6000rpm |
最大トルク |
7.8kgm/3200rpm |
懸架装置 |
フロント:ウイッシュボーン式独立懸架
リア:トレーリングアーム式独立懸架
|
スバル1000 スポーツセダン
エクステリア
シャープなハンドリング。抜群の追い越し加速。
パワーアップされたフレキシブルなエンジンとフルシンクロ4段ミッションのコンビネーションが生み出す爽快さ。これがスバル1000<スポーツセダン>の特徴でした。
<SPEC(昭和43年4月当時)>
全長 |
3900mm |
全幅 |
1480mm |
全高 |
1375mm |
ホイールベース |
2420mm |
重量 |
705kg |
エンジン型式 |
EA53型水平対向4気筒水冷4サイクル |
排気量 |
977cc |
圧縮比 |
10.0 |
最高出力 |
67ps/6600rpm |
最大トルク |
8.2kgm/4600rpm |
懸架装置 |
フロント:ウイッシュボーン式独立懸架
リア:トレーリングアーム式独立懸架 |